【CACE:1】


―PM.6;25――



「久しぶりだね、和成くん」




「…お久しぶりです。専務」


VIPルームであるこの部屋へ入ってくる笑顔の社長に頭を下げれば、

まん丸の顔をさらに丸くして笑う。

「どうだい、勉強はできているかね」





「はい。毎日励んでますよ」



「それは良かった」




――早く終わらせよう。今日はこれが最後の”仕事”だ。


これが終われば家に帰って提出期限が迫ってるレポートと論文の資料を探して…


そんなことを頭の片隅に思い浮かべながら、

椅子へ深く腰掛けた専務の元へ近づき、跪く。


いかにも金持ちって感じの高級時計が窮屈そうにまかれている手首を握れば、前よりもさらに太くなっている気がした。


笑顔で、問う。


「…お元気そうでなによりです」

少しは不健康になった方がいいような気がするけれど。




寿命を延ばしている限り外的作用を受けなければ死ぬことはない。



それで安心しているのか。


病気になったところで買った分の命がちょっと減るくらいだもんな。



また買えばいいと思っているだろうし。



「和成くんのおかげだよ」



言葉の裏に気付いていないこの男は、安心しきって目を閉じる。

――いつも思う。



こうして無防備にしているこの男は、これから俺が延命治療をするとばかり思っている。



だけど、知っているのだろうか。



協会やずっと後ろで俺を監視しているあの女はこの男に言っているのだろうか。






俺の意思ひとつで、



抜くことだってできるということを。冗談で言って見ようか。


言えば、途端にこの安心しきった相貌が恐怖に染まるんだろうなぁ。




ま、そんなことした途端、和成の自由は剥奪されるからできないけれど。


それに、しようとも思わないけれど、ふとよぎるこの感情はどうしようもない。



ゆっくりと呼吸をする胸に手を当てる。





もう数えきれないほどやってきたやり方さえも分からない力を使う。





数秒。手を離せば、ゆっくりと瞳が開く。

「……ふぅ」



「お約束通り、今回は5年分ですね」


終わったと同時にあの女が専務に告げる。




「あぁ。いつも思うけど高いなぁ。もっと安くならんかね」