あれは全部嘘だったのかな?
最初からすべて、
向けられた声も笑顔も、
私を癒やす甘さも、熱も。
『芹ちゃん』
あの声で呼ばれるのが好きで幸せで。
毎日同じ時間の繰り返しだった私の大切な時間。
でもそう思っていたのは・・・私だけだったんだよね。
こうして1日経つというのに心配の連絡すら・・・・。
「・・・・」
「芹ちゃん?」
心配そうにのぞき込むグリーンを勢いよく顔をあげて見つめ返す。
さすがに驚きを見せた雛華さんも同じように見つめ返してきて。
この瞬間に浮上したもので今までの会話を見事忘れた。
そうして再度記憶の回想し、間違いないと結論を出すとそれを響かせる。
「携帯・・・・」
「はっ?」
「私の携帯。たしか・・・ホテルの段階では雛華さんが持ってたでしょ?」
そう、鳴らないと嘆くより先に気がつくべきだった自分の携帯の有無。
考えてみれば最後にそれを確認したのは雛華さんがその手に握って私に示したのが最後。
それ以降色々ありすぎてその存在をすっかり忘れて過ごしていた。
まぁ、普段からあんまり携帯に依存していないから家に忘れても困らない程なんだけれど。
それでも今は状況が違うと、その存在が恋しくて雛華さんの腕を掴んで詰め寄ってしまう。
危機迫った表情だったのか、私の空気に若干の押された様な彼がそれを思い出すように視線を外しぐるりと空を泳いで私の目に戻ると。
「っ・・・ごめん、・・・ホテル・・おいてきちゃった・・かも」
苦笑いで「怒らないで」みたいに私を覗き込む姿に茫然とし脱力する。
だって、ここからじゃそのホテルは距離がある。
それに移動するにはお金だってかかる。
ただでさえ残金僅かな今無駄に使うわけはいかない。
あんな・・・・きっと誰も連絡をしてきていないであろう携帯なんか。
気がつけば再び視線が地面に落ちていて、それに気づかせたのは顎にそっと触れ優しく持ちあげた雛華さんの行為で。
再度視線が絡めば困ったように微笑まれた。
「・・・ごめん・・ね?」
だから・・・狡いんです。
その表情。



