いやいやいや、そんなつもりは一切ない。


思わず勢いのまま体を離そうとし、それでも何回も同じ過ちはしないように繋いだ手はそのままに顔を合わせる程度に距離を離すと覗きこむ。


その瞬間に捉えたグリーンは好奇心の塊だと気づいた。


ヤバい。


探求心に火を付けたかもしれない。


その予感は見事正解だと嬉々とした表情と声を響かせ私を覗きこむのは雛華さん。



「【駆け落ち】?何?それって誘拐の別名?」


「い、いえ、決して誘拐とかではなく。・・えと、その、・・・こう、訳ありの男女の逃避行的な・・・」


「じゃあ、俺と芹ちゃんじゃん。俺達は男と女で、逃避行で。【駆け落ち】ってやつだね」



満面の無邪気な笑みで凄い事を言われました。


いやいやいや、違う違う!


確かにその要素は強いけれど、駆け落ちと銘打つには決定的な要素が抜けている。


そして、その感情は今の私達には持ち得ないもの。


ん?今の?



「ち、違うんです雛華さん!駆け落ちっていうのはですね、訳ありと言っても好き合ってる男女がする__」


「じゃあ、やっぱり駆け落ちじゃない。俺、芹ちゃん大好きだよ?」


「っ・・・」


「芹ちゃんは俺嫌い?」



そ、そんな風に不安そうに首かしげて覗きこまないでほしい。


捨てられそうな仔犬。


そんな印象大の姿に一瞬呑まれ、あれ?何の話だっけ?と混乱しそうなこの状況。


だけど思い出せば焦ってそれに修正を響かせた。




「いや、ちがっ、そうじゃないんです。好き合うって言っても雛華さんが考えるようなそれじゃなくて、」


「じゃあ、・・・どんなの?」


「例えば、身分違いの恋び__」



ああ、地雷。


そして、自滅。


それを口にした瞬間に浮上するまだ血が滴りそうな傷口の痛み。


身分違いの恋人。


ああ、それが私と茜さんだったのだと思ってしまった。


身分が違う。


それを言ったら元々縁の無かった人なのだとどこかで虚しく感じてしまい。


そんな人が自分に本気だったと良く自惚れたものだと思って乾いた笑いが零れてしまった。



「っ・・はは・・・・」


「・・・芹・・ちゃん?」



心配そうな声。


優しい声。


でも、茜さんにも同じことを感じ取っていたんだけどな。