「誘拐・・してみていいですよね?」



ああ、言い方を間違えたと思った瞬間には彼の声が返される。


しかも、グッと縮まった顔の距離。


触れる顔の熱にさすがに女の子としての動悸もドキリと働き声音に鳥肌が立ってしまった。




「俺も・・・芹ちゃんを誘拐する・・・・」


「っ・・、誘拐は一度されてます」




耳に直接吹き込まれた声にゾクゾクとして、とりあえずそれはすでに為された事だと切り返せば。


僅かな間に彼はどんな表情をしているのか。


それでもすぐにクスリと笑うと抱きしめている腕に更にギュッと力を込め再度の吹き込み。




「なら、誘拐の再確認。・・・俺は芹ちゃんを誘拐してます」


「お互いに誘拐って・・・誘拐なんでしょうか?」


「あはは、いいね、また探求心?」


「い、いや、別にそういうわけじゃ、」


「じゃあ、このおかしな関係に他の名前の答えを芹ちゃんはもう持ってるの?」



ああ、なんて困る質問を。


そんな答え私が持ち合わせる筈もない。


誘拐犯を誘拐する関係なんて名前のつけようがないじゃないか。


今まで考えた事もないそんな関係にどんな名前が当てはまるのか馬鹿みたいに真剣に考えてしまう。


その間も雛華さんの肩腕はしっかり私に巻きついて、もう片手は私の指先と熱を共有している。


多分、この光景、傍から見たら完全に薄暗い夜道でいちゃついてるカップルだ。


そんな考えに及び、世間の一般の価値観にザワザワと込み上げる羞恥心。


本人たちにその気がなくとも、男と女である私達がこうして身を寄せていたら完全に恋人の括りなんだろう。


じゃなきゃ密会・・・、はたまた・・・、



「駆け落ちみたい・・・・」


「えっ?」


「えっ?」



雛華さんの反応によって自分も驚きの声をあげてしまった。


だって、心の中で出したつもりの結論を思わずぽつりと零してしまっていたから。


しかもこれまた普通に暮らしていれば浮かばなそうな単語を。




「・・・・駆け落ち?」




今度は雛華さんの声でその言葉が明確に音にされ、こうして自分にぶつけられると何故か焦る。