な、何事?
何でいきなりの抱擁?!
理由の分からない不満顔と言葉の直後に、これまた分からない抱擁に困惑したまま頬に雛華さんの服が当たる。
恋人でもないというのにこんなに男の人に抱きしめられる行為は初めてだと思い。
それでも相手が雛華さんだという事実に段々自分の心もいちいち騒がなくはなっている。
そう、この抱擁に特別な意味がないと、もうさすがに学習してきているんだ。
だからこそ羞恥とかでなく確認するために顔をあげて雛華さんの顔を覗きこめば、未だに不服そうなそれにようやく彼の名を呼ぶことで確認とした。
「雛華・・さん?」
「ねぇ、・・・芹ちゃん」
「はい、」
「コレって・・・誘拐なんだよ」
「はい?」
「芹ちゃんは俺を誘拐してくれてるわけでしょ?」
「・・・・はぁ、まぁ、そうですね」
「だったら・・・、一瞬でも俺から目離しちゃダメじゃん。逃げる様な隙作っちゃダメじゃん」
「ひなか・・・さん?」
「っ・・、手・・・離しちゃダメじゃん・・・」
そう言って、どこか気まずそうに顔を逸らした雛華さんを呆気に取られながら見上げてしまう。
全てのセリフを勢いよく言ったかと思えば、最後の言葉だけは小さく告げたのはさすがに羞恥心が働いたのだろうか?
どっちにしろ、
そう、どんな含みが無いにしても、
雛華さん・・・。
めちゃくちゃ可愛かったですけど。
何この人・・・、
つまりは、私が手を離して先に歩いてしまった事が不満でのこの行動?
その事を理解してしまえば自然と込み上げてくる物を堪えることはもう不可能で。
抱きしめられたままの体を小刻みに揺らせば、当然気がつく雛華さんが何事かと今度は私を覗き込むように見降ろした。
ああ、その表情も、
「ふっはは、あははは、」
「芹ちゃん?」
「やっぱり・・・・雛華さんって可愛い。どうしよう、私も探求心働いちゃいそうなくらい興味深いですよ」
思わず、ここ数日取り巻いていた【探求心】という言葉を引用して雛華さんに対しての感想を口にしてしまった。



