「っ・・買い物・・行きましょうか?」
「え?」
「ほら、懐中電灯・・とか」
「ああ・・・」
そう言えば納得した様な声が返され、スッと動いた気配が暗闇の中で立ちあがる。
そうして絡んでいた手を軽く引き私を助け起こす力に男の人を感じる。
いや、男の人なんだけども。
僅かにドキドキと早い心臓を感じながら歩きにくい闇に染まった部屋を手探りと記憶で動き始め外を目指すと。
その間もしっかりと握られている手の感触になんだか意識が走って、暗闇に対しての恐怖心は完全に飛んでしまった。
おかしいな・・・。
確かに私は色々あって、傷ついて、落胆して。
一瞬人生の奈落に突き落とされた気がしたのに。
そしてそれを巻き起こした台風の様な元凶の人がこの人であった筈なのに。
それを全て癒やして飲み込んだのもこの人。
なんとか玄関に向かい外の空気に触れてみれば断然家の中よりはっきりと物を捉える視界の良さに不思議な感覚。
ふわりと夜特有の涼しい風が無駄に熱く紅くしていた頬の熱を奪っていって。
そうして指先から繋がるその人を振り返る。
あっ・・・・綺麗。
風でいつもは完全に降りている前髪が流れ、明確になった表情の重要部分である眼の綺麗さ。
黒く長い睫毛の奥に何かの宝石の様に控えめに存在する緑色は心底綺麗で羨望する。
そうしてバランス良く?タイミング良く周りの夜の帳に光る月光。
全てがまるで雛華さんを引き立てる要素に感じるのが凄い。
思わず見惚れて立ち尽くしていれば月を見上げていた横顔がフッとこちらに向きを変え視線が絡むとふわりと笑う。
「・・・・行こうか」
「・・・・・はい」
投げかけられた言葉に返事して、それでも見惚れながら歩みを待てば何故か私を見つめたまま困ったように微笑む姿。
それに気がつけば自分も疑問に顔を歪めてしまう。
今度は何?
そんな疑問。
「あの・・・?」
「うん、・・・・あのさ」
「はい?」
「俺、この辺詳しくないから」
「・・・・・」
「だから・・・ね?」
「・・・っ・・ああ、ごめんなさい」
本当に私って馬鹿。



