THE FOOL





「妹を探求心の対象にするなって怒られた」


「・・・・ああ、それは納得で同感です」



成る程、妹さんの事でしたか。


そうしてみれば見事繋がる会話にどこかホッとし息を吐く。


ん?何で安心?



「別に変な悪戯したわけじゃないんだけどねぇ。いつまでも2人べったり傍にいたらいつかお前が探求心で暴走しそうだって注意されちゃった」


「はい、それは何となく正論ですね」


「さすがに俺モラルとか道徳は持ち合わせてますよ?」


「そういう人は誘拐なんてしません」


「そう?」


「それに簡単に女の子の体に触ったりしませ___」



ほとんど言い終わって、でも言葉を言いきらなかったのは善意で私の手を握ってくれた彼を否定するみたいだったから。


それでも響いてしまった言葉の羅列はとっくに彼の耳に入りこんで沈黙を痛くする。


気まずい空気の中で時計の針の音が煩くて、もうすでに暗闇だというのに目蓋を降ろして逃避したい感覚。


だけどそれをすばやく阻止したのは、




「・・・・嫌だった?」




少し寂しげで戸惑っている雛華さんの声。


そうして、私の言葉を気にしてなのか緩んだ指の力に焦って心が考えなしに声を発する。




「大丈夫です!嫌じゃな__」




また・・・中途半端な言葉の打ち切り。


最後の「い」を告げたら、


何となく自分がいいかげんな子に感じる気がして。


狡くもその意味が通じる程に音にしておき、言いきらない事で自分の保守。


だって、まだ茜さんが好きな気持ちは確かにあって。


なのに甘やかすように接してくる雛華さんに浮かれるのはなんだか醜態だ。


私が他者であるならいい加減な女と思いそう。


それでも、キュッと感じる指の感触。


舞い戻った心地のいい圧迫感と熱。


しっかり握り返された手の感触に心底安堵した瞬間に入りこむ癒やし効果のありそうな声。




「良かった。・・・・・芹ちゃんには嫌われたくない」




ああ、安くて浅はかで薄情な私。


その言葉と予想出来る雛華さんが浮かべているであろう笑顔で辛かった心が癒やされるんです。


やっぱり明るければよかったのに。


今、凄く・・・・、


そのグリーンアイを見たいです。