THE FOOL




「・・・・雛華さ・・」


「恐いんでしょ?」



そう言った声は酷く優しいけれどその表情は良く見えなくて。


それでも目を凝らせば上がっている口の端に力が抜ける。


言葉が伴われた行動は私の手にスッと絡みついてきた雛華さんの指先で。


しっかり絡んだ熱に混じったのはきっとあのスクエアの黒い石の指輪。


印象的なそれを思い出しながらしっかり絡む指先の熱にも意識が走る。


いままで私が躊躇っていた行動。


つまらない見栄や余計な推測。


なのに何の躊躇いもなくサラッとやってのけた雛華さんに私が懸念した様な嫌悪感はなく。


多分他の男の人にされていたら色々疑い深くなり、その行為を素直に受取れなかったと思う。


だから・・・、



「雛華さんって凄いです」


「はっ?何が?」



思わず称賛の声を向ければ驚いた声と言葉が返されて、その表情も同じ物なのだろうと想像した。



でもはっきり見えない表情は想像でしかなくて。


どうも本当の表情が見えにくいこの状況ではなかなか聞けなかった事まで聞けそうだと、僅かな躊躇いを孕みつつもそれを口にし確認する。



「雛華さんにとって、・・・異性ってどんな風に見えてるんですか?」


「異性?」


「はい、女の子とか。恋とかに興味ないならどんな風に感じてるのかな?って」



大胆な発言だっただろうか?


それでもどうしても気になってしまった雛華さんの生態。


現実離れしたこの人の行動は全く読めなくて、純粋無垢かと思いきや突如悪戯な小悪魔の降臨で人を見事に翻弄する。


そうして悪戯に感情乱しておきながらあっさりと決定的な事なく余韻ばかりの刺激を残してその身を引くから困惑するんだ。


だから、気になったんだ。


私に対してとは聞かない。


それでも、私を含む全般。


雛華さんが対する異性はどんな印象でどんな感情を抱く物なのだろう。


暗闇効果。


表情がお互いに確認しにくい事で声だけの感覚に本音を聞きやすいと思ってしまった。


そうして私の問いかけに僅かな間があいたのはどういう思考なのか。