THE FOOL






うん、でも、これは正常範囲内。


誰だってこんな素敵な人に笑顔でこんな事を言われたら僅かにもドキリとする筈。


自分の反応はどこも過剰なものではないと心の内で確認すると次なる疑問の解消となる言葉を続けた。



「笑ってしまってすみません。その・・・何度も私を呼ぶ姿が可愛らしくて」


「・・・・可愛らしい?」



そう言って自分を指さし首を傾げた姿に再びクスリと笑って頷いてしまう。


そう、その反応もまた可愛らしいものであり、本当にさっきのあの色気を孕んだ人と同一人物かと疑いたくなってしまうほど。



「可愛らしいなんて、男の人には失礼ですね」


「えっ?」


「すみません。今度からは気をつけます」



軽く笑って仰々しく頭を下げてゆっくり上げる。


これでこの騒ぎも終止符だと思い意識をようやく沈みかけている夕陽に向け始めた時だった。



「・・・・【可愛い】って・・・貶して言ったの?」


「えっ?」



一気に引き戻された視線と意識。


向けられた言葉に反応し振り返れば疑問顔で私を見つめる姿。


差し込む夕日が横の窓から入るせいで顔の半分は黒く陰って表情も濁す。


なのにはっきり浮かび上がるグリーンアイは綺麗に光って、思わずコントラストに息を飲んだ。


その瞬間に再度の投げかけ。



「ねぇ?さっきのはどういう意味で言ったの?」



決して怒って確認しているわけではないようで、ただ純粋にその含みを知りたくての言葉らしい。


一瞬呆気に取られ不動になっていたけれど、再度の確認で我に返ると慌てて前者の否定を告げる。



「ち、違います!!決して貶したんじゃなくてっ・・、」


「・・うん?」


「・・その・・・、なんだか・・・・可愛いと」


「・・・・う・・ん?」



ああ、結局なんの説明にもなっていない。


私の返答に困惑の表情で視線を空中に泳がせる雛華さんに自分の頭の悪い返答を申し訳なく思ってしまう。


だって、なんて言っていいのか分からないんだ。


【純真無垢】?


【仔犬みたい】?


うーん・・・。


自分も雛華さんの様に視線を泳がせ補足を探すも、上手く当てはまる項目の無い事といったら。