THE FOOL





そう、一応これは誘拐という名の逃亡だったのだ。


だからこそ隠れ家的なここを選んだわけで。


すでにここを気にいってしまったらしい雛華さんの意思は固い。



「いいじゃない、今日くらい。電話すれば全部明日には解決するでしょ?」


「きょ、今日の問題です!!」


「・・・・ごはん買ってくるだけのお金は持ってるよ?」


「そうじゃなくて・・・電気は?」


「・・・うーん、懐中電灯でも買ってこようか?」




ナイスアイデアとばかりに微笑む姿は輝きに満ちていて、もう私の意見など何を言っても通らないのだと意識が遠くなる。


今でさえこんなに恐いというのに懐中電灯で一晩?


恐すぎる。



「私・・・絶対に雛華さんに迷惑かけますよ?」


「迷惑?」


「恐くて絶対に振りまわします」


「例えば?」


「こんな風にしがみついたり」


「うん」


「叫んだり」


「・・・うん」


「動くたびについて来てもらったり」




そう告げた瞬間、フッとその体を捻り私と対峙した姿に恐怖も吹っ飛んで驚いた。


今の会話の流れで何故?ってほど何故か満面の笑みで私を見つめるグリーンがあったから。


驚いてどういう反応か見つめ返して入ればニコニコと微笑む姿が爆弾を投げる。




「芹ちゃんって可愛い」




その言葉の言い方が何の含みもなく純粋に響いてくるから見事被爆し大やけどだ。


茜さんにそれを言われるのもいつもどこかむず痒くていつもドキドキしていたけれど。


今こうして雛華さんにまでそれを言われ、茜さんとは違う動悸を与えてくる魅力に振りまわされる。


謙遜の言葉も返せずにワタワタと視線を泳がせていれば、不意に自分の指先に絡んでくる熱。


細く長い指の付け根に黒いスクエアの石の指輪を捉え、それに見惚れている間にその指先が私の指先に絡まった。


向かい合って手を絡めて。


これは一体なんの儀式だろう。


それでも絡みついてくる指の感触や体温に安堵ししばらくその黒い石を見つめてから顔をあげた。


そしてまた一つ絡む。


癒やしの緑。




「・・・・俺、芹ちゃんに触ってると安心する」




それは・・・・、私の感想です。