そうして、特に返してもらうつもりのなかった借金。
「とりあえず・・・・」
そう言って躊躇いがちに俺の手に握らせる僅かばかりの金額。
握らされたそれに意識を働かせながら、もしこれをただの善意で利子無しに終わらせたら・・・。
彼女との関係はここで終わる?
それは・・・・、
嫌だ。
だって・・・・・、彼女が気になって仕方ない。
彼女は俺の予想外で、優しく笑って、どこか馴染みやすくて・・・・。
どうしてそんな風に感じるのか、彼女の傍で解き明かしたいんだ。
かといって、
今更お金でそれを繋ぎとめたいと思わない。
ハッとすれば俺に頭を下げ、その身を動かし俺の前から消えようとする姿。
思わず引き戻してそのまま近くの壁に押し付けるように拘束して見つめてしまう。
俺は何をしているんだろう?
そう思うのに、
もう、彼女への興味が尽きずに胸がざわめく。
それにこのまま別れたら、きっと茜ちゃんが何かしらで誤解を解いてまた茜ちゃんの物になってしまうんだろ?
それが彼女には一番。
彼女の事を思うならここで別れ関与しないのが一番かもしれない。
それでも・・・・、
まだ・・・茜ちゃんのところに戻したくない。
「・・・・言ったでしょ?・・・・【誘拐】だって」
「・・・【誘拐】?」
彼女の酷く困惑した表情と声。
そりゃそうだ、やっと回避した借金を今度は俺に指摘されて、しかも【誘拐】とか言われ脅される。
どんな心中なのかと思っていれば、どうやら俺の思っている事とは多少ずれている考えの彼女の言葉。
「あの1千万の代わりに・・・言う事を聞けってことなんでは?」
成る程・・・・、
そういう風に取ったのか。
俺としては彼女を茜ちゃんから誘拐するという意味で口にした事。
なのに彼女からしたら、【誘拐】に探求心を働かせていた俺につき合い俺を誘拐するという意味になったらしい。
・・・・・まぁ、いいか。
「・・・・うん、そっちでもいいや」
「はい?」
「・・・・・そっちの【誘拐】でもいいや」
彼女を拘束する【誘拐】には違いない。



