ーーーTHE FOOLーーー






高そうなホテルの一室で未経験の感覚に目が眩む。


こ、こんなの今まで経験した事ない。


必死にシーツを握りしめてそのどうにもならない刺激に耐え抜いていればそっと両頬を包み込む手の感触に閉じていた目蓋をゆっくり開けた。



「・・・・芹(せり)ちゃん、大丈夫?」



息切れ交じりに覗きこむその顔に、今までの行為を異常に意識し顔が赤くなってしまった。


美麗。


ふわり焦げ茶の緩い癖っ毛にその隙間から覗くグリーンアイ。


決して外人さんではなく、それでもカラコンでないこの姿。


こんな人に求められているこの時間がすでに奇跡に近いというのに、さっき更に信じられない申し出を告げられたのだ。




「大丈夫・・です。茜(せん)さん・・・」




どこかフワフワとした感覚のままそう返せば、彼の指先が私の頬を抓んで非難を示す。


その意図を確かめるように見上げる表情は子供のように不満げに歪む美麗な姿。




「【さん】はいらないって」


「す、すみません・・・」


「また敬語だし・・・、芹ちゃんの可愛いところでもあるけどさぁ」




そう言って不貞腐れる姿はとてもいいところのお坊ちゃまに見えない。


それでもなんだかその姿が可愛らしくてクスリと笑えば見逃すことなく反応した彼が私を覗き込む。


ニヤリとニヒルに微笑んで。



「ん?何?」


「っ・・・・いえ、なんでも・・・」



多分・・・、可愛いとか言ったら苛めぬかれそうだと判断し意地の悪い頬笑みから視線を逸らすのに。


顎に絡んだ指先がグイッとそれを許さずグリーンアイと再び交差。




「ふふっ、逃げられるとでも思った?」


「・・っ・・・あの、・・・たいしたことでは・・・」


「じゃあ、言って」




これは・・・言うまでこの押し問答が続くであろうと予測が働く。


だって彼のこの強引さによって私はありがたい事に日々口説かれ、こうした時間を迎える羽目になったのだから。




「芹ちゃ~ん、黙ってると言うまで意地悪な事繰り返すよ?」




え、笑顔の脅迫だ。


向けられるそれの脅威はさすがに学んでいる。