「あれ、越知先輩?こんにちは!お久しぶりですね!」

夏休みも終盤に差し掛かり、部のイベントといったものも特にないまま日々を過ごしていた俺は、つい2、3日前から公開され始めたばかりの新作映画を見に映画館へと足を運んでいた。

「日向さん?奇遇だな、映画を見にきたのか?」

「そうなんですよ!先輩も今日は映画を見に?」

「ああ、今日は新作のミステリー映画を見に来たんだ。俺はああいったジャンルが大好物でな」

「奇遇ですね、私も同じ映画を見に来たんですよ!あ、良かったら一緒に見ませんか?」

日向さんは最初に見たときとの印象とは少し異なり、最近はこのように元気な印象を垣間見せる。これはこれでいいと思うが、日向さんも一緒の映画を見に来たというのは正直驚いた。

「ああ、別に構わないぞ」

映画の概要としては中高生をターゲットにしたアニメ映画で、高校で次々と起こる奇妙な事件を主人公とヒロインが解決していくという話だ。

キャッチフレーズは“この謎が君に解けるだろうか?“という視聴者の興味を煽るようなもので、そのキャッチフレーズは俺の心をも突き動かした。

俺は中学の頃からミステリーを解いていく推理系の小説や映画を好んでおり、物語の中で自らの頭を使って謎を解き明かしていくそのプロセスが好きだった。それを自らの力で解き明かすことができたとなれば、満足感はさらに大きくなる。

だから推理系の映画は欠かさず見てきたし、その度に映画館に足を運んでいた。

とはいえ普通に映画を見ることも好きだから、色々なジャンルに手を出している。アクション系や恋愛系だって見ることもある。つまりは大画面で高揚感を味わえる映画が趣味なのだ。

今作はアニメ映画ということで、期待はあまりしていなかったが、ネットでの評判を見るととても好評だったから、これは見ずにいられないとこうして暑い中足を運んだというわけなのだ。

俺は、映画の料金を見つめている日向を横目に、券売機に5千円札を通し中高生:1000円という表示をタップして、2枚を購入した。お釣りを取って財布にしまいつつ、日向さんへと振り返る。

「はい、チケット」

俺は2枚のうち1枚を取り日向さんに手渡した。

「あ、ありがとうございます!1000円でいいんですよね?」

そう言って財布のファスナーに手をかけた日向さんを俺は軽く手で制す。

「いいって。ここで会ったのも何かの縁だし、俺の奢りって事でいいよ」

「え、いや悪いですって。たまたま居合わせただけなのにそこまでしてもらっちゃ...」

日向さんは申し訳なさそうな表情を浮かべるが、こう言われるのも承知の上であったから、その上に言葉を重ねる。

「俺からのいつもの感謝の気持ちだと思って、受け取ってくれ」

こうなっては断る事など出来ないと日向さんは静かに財布をバッグにしまう。

「では、お言葉に甘えて...」

もう一度頭を下げる日向さんに、俺は全然いいって、という風に手を振る。

「上映時間は...15:30だな」

「今15:25ですね」

「なかなかいい時間だな。じゃあそろそろシアターまで行こうか」

「はい!」

チケットにはシアター7と書いてあり、近くの入り口からそのまま入ることができた。

俺たちが席へとつくと、周りは結構な人がいた。チケットを取る時もそこまでいい席が多くなかったので、それを考えると当然なのだろうが。

宣伝が終わると、徐々に明かりが暗くなっていき、いつも見ている上映中における注意を流し見て、その後映画が開幕した。

俺は映画特有の高揚感を胸に、目の前のスクリーンへと目を向けるのであった。













「すごく面白かったですね!」

映画は想像していたよりも何十倍も面白く、何度もスリルを感じさせる場面があった。所詮中高生の謎解きだろうと思っていたが、そんな生易しいものでは決してなく、何度も見ているこっちまで焦燥感に駆られたほどであった。

当初は“高校を舞台にした高校生の謎解き恋愛物語”というコンセプトだと思っていたのだが、最初は舞台は高校の中だけなのだが、徐々に校外でも奇妙な出来事が起き始めるとともにさらに謎が深まっていったのだ。

これが俺の推理意欲を掻き立て、世界観へ予想以上にのめり込んだ。

「ああ、正直ここまで面白いとは思ってなかった」

「いやぁ、最後のあの緊迫感は本当に凄かったですね!」

日向さんも映画を楽しむことができたようで、テンションが上がっていつもより早口になっている。

ふと時計を見ると、時刻は17時を回ったところで、映画館のエントランスも人がまばらになっていた。

「先輩って映画好きなんですか?」

「そうだな、映画見るのが趣味みたいなものだしな。特に推理系が大好きなんだ」

「へえ、以外です!私も映画が大好きで、いっつも観に来てるんですよ!」

日向さんはニコニコしながらさらに話を盛り上げていく。

「日向さん。家って北鎌倉だっけ?」

「あ、大丈夫ですよ!お気遣いなく、1人で帰れますから!あと、日向さんじゃなくて気軽に瀬奈って呼んでください!」

「お、おう。わかった。じゃあ瀬奈、気をつけて帰れよ?」

「はい!今日は本当にありがとうございました!とても楽しかったです。また映画行きましょう!」

話しながら歩いていると、いつのまにか駅へとついていたようで、電車が違う俺たちは、それぞれの電車に乗るため、駅の改札前で別れたのだった。