実際は逞しい心のまま涙も流さず、当たり前に出勤していつも通りの一日を過ごす自分。
見渡せば今日だって自分目当てに来店している若い女の子達がいる。
ああ、そろそろ豆の在庫をチェックしておかないと。
来月のシフトも出さないとだし。
大学の講義とか課題とか。
恋は失ってもやる事には満ちている。
ただ恋の無い当たり前の時間に戻っただけ。
そう……戻っただけなのに。
こんなに……物足りない日常だったっけな?
そんな喪失感が大きくてどう一日を消化していいのか分からないのだ。
今もまた生クリームの補充をしていた最中、「はぁ」と何度目かの溜め息を零して手が止まる。
そんな自分の横で他の作業をしていた美代が自分とは違う意味に息を吐きだすと、
「……まあさ、何があったんだか知らないけど、私としては安心したわ。大事な親友がようやく女として目覚めた相手があんなチャラそうな男だとか」
「チャラそうって……まあ、見た目はね」
「まあだ、そうやって庇う~。案の定泣かされてんじゃない。泣いてないけど。言ってごらん?どんな最低行為で捨てられたわけ?」
もう本当、美代の中ではどんな最低キャラな吐季さんなんだ?と、ここまで来ると苦笑いしか浮かばない。
一瞬は全力で否定を唱えようかとも思うも、それを口にするのは過ごした時間を回想することになって。
それこそ、粉砕した想いを再構築してしまうんじゃないかと静かに飲み込む。
でも、一つ答えるならだ。
「一途さに負けた」
この一言に浮上するのはひたすらに終幕に感じた痛みの記憶ばかりで、決して間違った想いの再燃には繋がらない。
自分は負けたのだという再確認ばかりなんだから。



