暫くは吐季さんの言葉を飲み込み染み込ませるように無言で見つめていたけれど。
程々に失恋の毒の回りを内側に感じるとようやく息を吐いて脱力する。
そんな心を伺うように覗き込んでくる双眸は、笑みの種類こそ違うけれどあの夜の物と優しさは一致する。
好き……なんだよな。
うん、好き。
物凄く好き。
でも……吐季さんは手に入らないんだ。
「吐季さん、」
「ん?」
この、声をかけた時に必ず返す「ん?」って反応すらも好き。
その時に僅かに上がる片眉も。
ほんの僅か傾げる首も。
「吐季さんの好きな人ってどんな人ですか?」
そんな女々しい想いすら粉砕してほしい。
「……ありのままで綺麗な子」
「っ……」
「自分をまったく飾ろうとしないとこがクソタイプで……思い出すだけで欲情しそう」
「…………フッ、なんか、完全完敗。絶対にその人に勝てるはずないんだって……抱く筈だった未練の分まで粉砕されましたよ」
本当に、勝てる筈なかったじゃないか。
出会った傍から嘘偽りで作り上げていた巴ちゃんが。
始めから、土俵にも上がれない恋に一人で勝手に盛り上がっていたんだ。
そんな結論まで降りてしまったら、もうこれ以上【巴ちゃん】を続ける意味も理由もない。



