こんな風にリップの試供役になってしばらく。
どんなに報われないにしても簡単に消滅してくれるわけではない恋心は健在で。
報われなくともこうして吐季さんを独占出来る時間があるならいいんじゃないかと女々しい感覚で逢瀬を続けてしまう。
そんな女々しさの中を切り開けば諦めの悪い期待なんて物も零れ落ちてしまうだろう。
もしかしたらと。
こうして、一緒に居ればいつかなんて。
本当、どれだけ諦めが悪いのか。
自覚して以来続く自分の執着心には振り返る度に呆れてしまう。
今もまた、ヤレヤレと息を吐いて椅子の背もたれに身を預けた瞬間。
視界に捉えたのはテーブルの上のサンプルの数々で、だけどもそれとは異なったケースのリップを見つけて手を伸ばす。
一目で気になったのだ。
淡いピンクともオレンジともつかない色味。
それこそナチュラルな唇その物の色味に近くて。
もう商品になっているものなんだろうか?
「吐季さん、コレ凄く良い色ですね」
「ん~?……あ、それ混じってた?」
「はい、でも他のサンプルとケース違うし、コレもう商品化してるやつですか?」
「んー、いや、これもサンプルかな」
「だったら、これを今回の新商品に加えたらどうですか?それこそ素肌に合う…」
「しないよ」
あ……。
その一言と表情で分かっちゃうな。
これが吐季さんの特別で、一途さで、誰の為の色であるのか。



