そんな人の荒みを知る由もない吐季さんの頭は、ひたすらに今は目の前の仕事が強らしい。
「せっかく可愛く仕上げてあげたんだから、鏡の前ではにこやかにして欲しけどね」
「……あ、良い色」
仕上げただなんて。
ただ唇にリップを塗っただけじゃないか。と心で突っ込んでいたのもすぐに取り消し。
鏡に映り込んだのは悲しいかな巴ちゃんである自分の現実だけども、それすらも払拭。
「へえ、塗る前だとちょっと濃い気がして印象悪かったのに、全然仕上がり変わりますね」
「そのままの物を見るのと肌に乗せたのじゃ色味の映え方も変わるからな。それでも大人がつける濃厚さとは違うでしょ?」
「そうですね。確かに若い子向けというか、つけててもやりすぎた化粧感はないナチュラルな感じ」
「んーでもなぁ、……やっぱりもう少し淡めるか。今回はハイファッションな若者狙いなわけじゃないからなあ。どっちかといえば素肌の綺麗さ押しなメイク初心者ウケ狙ってるわけだし」
「確かに、メイクの心得無いとこの色はちょっと浮いちゃうのかな」
綺麗な発色だと思っても、メイクを施している自分の顔だから統一が取れているのだ。
まあ、自分のこのメイクも最近焼き付けで覚えた技にすぎないのだけども。



