最初こそ男女の意識なんて皆無であって、この逢瀬だって単なる恩返しの意味しかなかった。
だけども、会う回数が増せば自然と知らなかった人となりを見てしまうものだし、打ち解けてくれば会話も冗談交じりで弾みがつく。
あんな噂が立っても仕方がないくらいに吐季さんは親切で面倒見がいい。
見た目のせいでそれをチャラさに取られるけれど、根は真面目で仕事馬鹿だ。
そんな多彩な面を会うたびに知ってしまえば……そりゃあ好きになってしまう。
でも、親しくなってしまえば知らずにいたかった事まで知ってしまう物で。
「吐季さんって、一定の彼女居ないで色々な人と楽しんでそうですよね」
「あ、そういう事言っちゃう?これでいて心は超純真だからね?何せもうかれこれ1年は一途に片想いしてるんだって」
何てことないいつもの茶化し言葉。
笑い話。
なのに返された一言はどんな意地悪な冗談より衝撃を覚えた。
そんな刹那だったのだ。
あ、そっか。
吐季さんの事を好きになってたのか。
と、そんな自覚をしたのは。



