お互いに不満露わで一見すれば睨み合いにも感じられる対峙であったと思うのに、交わす言葉は口調ばかりが咎めるもので内容はひたすらに惚気合いでしかない。
それにお互いに気がついているからこそフッと失笑することでケリをつけて、再度俺をトンッと押し出す手の力の心地よさ。
「キッチリと最後までお仕事してきてください」
「分かってるよ。仕事の後の【猫缶】楽しみにしてるしな」
「猫まっしぐら?」
「ガッツガツにな」
亜豆の言葉の引用。
亜豆を猫缶と称してみれば自分を指さして確認してくる姿にクスクスと笑ってしまう。
些細な束の間の別れに過ぎないのに離れがたくて仕方ないとかどうかしてる。
それでも今度こそ気持ちを切り替え軽く手を上げる事で『また後で』の意。
それを理解している亜豆が同じように片手をあげる仕草を最後に見納め、スタッフ用の出入り口に向かって歩み進めた。
気持ちを切り替えてしまえば仕事に前向き。
腕時計を確認しながら頭では残りの仕事の手順を考え、これをしてあれをしてと徐々に予定を組み上げながらスタッフ出入り口の扉を押し開いて通路に入った直後。



