仕事放棄してこのまま亜豆との時間になだれ込みたいなんて思っている自分は大人として失格なのか。
それでも本気でそれを為そうとする程モラルがないわけじゃない。
だからこそもどかしいのだけども。
一応関係者に挨拶して控室の片付けもあるし、井田の事だから『打ち上げ~』とか言って誘いに絡んできそうだしな。
あれをどうかわすか・・・。
そんな思考を巡らせて一瞬リアルから意識がお留守でいれば、それを引き戻すかのようにトントンと腕を叩かれ我に返った。
「すみません。スタッフとしてお客様の私をツリーまで案内してもらえませんか?『オーナメントどこにかけていいのか分からない』って理由で」
「フッ・・・あんなにわっさわっさかかってるのに?」
「なんて対応悪く不親切なスタッフですかね。お客様の声のはがきに匿名で不満書き綴りますよ?」
「どんなクレーマーだよ」
それでも誘い上手と言うのか。
『案内してください』と言う癖に先陣切ってツリーに向かう姿には苦笑い。
完全に案内なんて必要なさげなのに、と、心で突っ込みを入れつつその姿に付き添って、自分が足を向けたのは真正面で見栄えのいい場所。
なのに不意に進む方向を別に真正面ではない裏側に向かい始める亜豆の行動は予想外。



