自分の電話番号なんて教えて何をどう使われるか分かったものじゃないご時世なのは私だって知っている。
彼を困らせている。
無言の反応にそんな現状を感じて居た堪れなくなってくる。
別に困らせたいわけじゃない。
でも、困らせている。
そう理解すれば欲に縋るという事になれていない自分の手は、諦めたように緩んでそっとスーツを離した。
「っ・・・」
・・・筈が。
離れた傍から手首を掴まれ引き戻されて、何事?と見上げた彼は苦笑いで胸ポケットからペンを取り出す。
そうして私の手の甲にさらさらと書き出すのは数字の羅列。
「掌だと握ったら消えそうだしな」
「っ・・・」
「お前って・・・面白いくらいにまっすぐで馬鹿だな」
「・・・えっ?」
「いい報告なんて期待してねぇけど。・・・悪用すんなよ?」
「っ・・・・わ、分かった。本当に必要最低限かけない!大事な用事にしか使わないから!」
「お前が言うと・・・本当必要な時しかかかってこなさそう」
「かけない!絶対に迷惑になるような事しない」
「・・・やっぱり、変なやつ」
クスリと笑った姿がペンを胸ポケットに静かに戻し、『行くぞ』と促しながら背を向ける。
どうしようか。
驚くほど手が震える。
違う、体全てが。
動機と眩暈に苛まれて、まともに歩けているのかも分からない。
逆上せたように熱くて・・・熱くて。



