冗談でなくてよかったのに。
居たいだけいればいいのに。
違う・・・・・困った。
もうすでに・・・勝手に彼の残像が焼き付けて居場所を作り上げてしまっている。
私一人の世界であった筈の場所に予告もなしに入り込んできた姿に最初こそは警戒して嫌悪して、なのに今は馴染みきって安堵までして。
それでも・・・もう出ていこうとしている姿には逆にこっちが心細くて、寂しくて。
なのに、
『行かないで』と、自分の欲を吐きだす術を私は知らない。
そんな葛藤に満ちている間にも『戻るか』と一人すっきりしたように背を向ける姿に焦燥感だけが募って。
この感情が何なのか明確でない癖にジッとしておれず気がつけば彼の背中に詰めよってスーツを掴んでいた自分の手。
当然、『何?』と言うように振り返ってきた彼に感情的について出た言葉は、
「っ・・・電話番号!」
「・・・・はっ?」
「あ、悪用しない!ち、違くて・・・やっぱり私あの会社にもう一回お願いしてみるから」
「あはは、だからいいって。無理無理」
「わ、私が・・・しないと収まらない。私が・・・したいのっ」
「・・・・・」
「だから・・・、もしもの時に・・・連絡先」
さすがに・・・
教えたくないでしょうよ。
ここまで時間を共にしたと言ってもそれは今日限りであるから出来たのかもしれないし。



