その視線がこちらにないからなのか、
「・・・・・言葉を話す必要性がなかったから」
言うつもりではなかった言葉がポロリと零れて自分でも驚く。
そんな私の問題発言にもあっさり『ふぅん』と興味があるのか無いのか分からない反応を示した彼。
それがまた、逆に心が楽になって絆される。
「自分の声って・・・こんなだったんだね」
こんな風に響いて震えて・・・自分だけの音なんだと改めて感じた。
ようやく自分の声に感傷的になって、海から吹き抜ける風に誘われるようにコンクリート塀に手をかけるとよいしょと登ってそこに立った。
傍から見たら自殺行為にも間違われそうな状態じゃなかろうか?
それでもそんなつもりは微塵もなくて、ただ吹いてくる風を全身で感じたかっただけ。
今までとは違う感覚に満ちている自分で改めてこの場所を感じたかっただけ。
そうして立ってみれば・・・圧倒的開放感。
人のいる世界だ。
ジオラマの様な景色の中には明かりが灯って人の気配がして、今まで見ていた無人化の世界とはまるで違う。
一歩踏み間違えれば確実に死と直結する高さに畏怖しないわけじゃない。
それでも畏怖すると言う事は生に執着があるという自分を再確認してなんだか無性に感極まった。
そんな刹那。



