「やっと声出した」
「っ・・・」
「最初はてっきり口きけないのかと思ったよ。あんな状況でも助けも叫ばないし」
いや、きけなかったのよ?
実際昼間では自分の声の響きすら忘れていたくらいに。
そんな事情など知らない彼がクスクスと笑いながら私より一歩前に出て景色を一望する。
なんだかんだここに来るまでに時間を食って、空は青空から夕刻の空へ。
それでもまだ日は落ちかけている状態の明るさ。
絶妙なコントラストの情景は確かに彼でなくとも意識を引かれるのだろう。
綺麗だ。
そんな景色に引かれ無意識に屋上の縁へと足を進める。
縁はコンクリートの壁が私の胸の下まで高さがあり、それ以外は鉄柵もない。
危険と言えば危険なんだろうけれどこんな廃墟と化した団地の屋上に好き好んで来るのは私のような人間かヤンキーか自殺願望者か。
鉄柵がないからこそ写真に収めるのに好都合でもあった。
「なぁ、」
「・・・・・」
「何で、今まで黙ってたんだ?」
景色に意識を向けていれば不意にそんな言葉をかけられ僅かに振り返る。
そんな風に問いかけたくせに彼の視線は私でなくて視野に広がる様々な情景にあるらしい。



