どう考えて怒る場面だろう。と、未だ俺の服の端を掴んでいる小田をチラ見してみせ亜豆に視線を戻していく。
抱きつくのは止めたにしても服の端を掴んだままなのは小田としての対抗意識なのか。
一瞬捉えた小田の表情はにっこりとした笑顔で、それはそれで『恐いな』と怯む物がある。
そんな俺と小田と、交互に視線を走らせた亜豆が最終的に俺に視線を固定させると。
「殴り合いましょうか?」
「はっ!?」
「いえ、女の修羅場ときたら相場は猫娘的な引っ掻き殴りの取っ組み合いなのかなぁと。私的にはあんまり痛い事得意でないので遠慮願いたいんですが・・・伊万里さん的には何やらあからさまに揉めてほしいみたいに感じたので」
「いや、俺別に取り合って殴りあって欲しいとか思ってねぇんだけど」
「と、伊万里さんは言ってますがどうします?」
こいつはどこまでマイペースな物言いと価値観なのか。
淡々と事務的に連ねられる言葉には慣れていてもやはり頭を抱えてしまう。
別に揉めてくれと言いたいわけじゃなく、それでも無反応もどうかと突っ込みたかっただけだと言うのに。
何を言えばいいのか。そんな風に息を吐いた間に不意に亜豆の意識が俺の背後の小田に向けられ、これまたどうなんだ?という問いかけをしているから複雑だ。



