伊万里さんとミケの話をしている時でさえそんな予測はしていなくて、どこまでも自分の意識の軸は伊万里さんにだった。
でも、今この場に軸を置くべき姿がない。
そうすると嫌でも浮き彫りに鮮明になってしまうこのインパクトの大きな存在。
大きすぎるのだ。
下手したら扱いきれない危険と言えるような存在。
だからこそ余計な接触は持ちたくなくて、変な情が湧く前に見切って無視して家の中に逃げ込もうと思ったのに。
すでにまんまとこの男の手中。
でも、今ならまだギリギリ逃げ込めるだろうか?
そんな事を思いながら焦るでもなく横に倒していた鍵を戻して抜き取ってポケットへ。
同時にドアノブに手をかけカチャッと手にも耳にも帰宅の感触を得た直後。
「俺も入れて~」
「入れるわけないでしょ」
「え~、寒い、お腹空いた、温かい物飲みた~い」
「じゃあ、早く帰ったら?あ、そこの角曲がったらコンビニあるから空腹満たしてホットコーヒーも勿論売ってるから」
あくまでも入れる気はない。
バッサリと笑顔付きで切り捨てて自分だけ開いた扉の隙間から身を投じて手を振った。
当然『え~』なんて不満げな声が響くも無視を決め込み扉を閉めた。
ガチャリと施錠までするとフゥッと息を吐きだし今更の動揺。
そんな動揺に馬鹿正直に早くなった心臓を宥めるように胸を押さえて、一瞬扉を振り返りかけるも途中で踏みとどまって目蓋を下ろす。



