この無愛想な声は、八木。



短い間でしか話していないのに、もう見なくても誰が言ったのか分かる。



ペンケースに伸ばしていた手を止めて、前を向く。



びっくりした。



まさか、3人共こちらを向いているとは思っていなかった。




「もっとこっち来なよ、いちかちゃん。」



おいでおいでー、と手を招いてくれる溝江。
教室では、いつも通り声を掛けないでいてくれた。
その、ちょっとした心遣いがとても嬉しかった。



広げたノートを閉じて、ペンケースと共にトートバッグへ。



どこまで前に行けばいいのか分からないから、彼らの顔色を伺いながらゆっくりと進む。
前から3列目の席でようやく止まって、荷物を下ろす。



私が座ったのを見届けて彼らは、機材の調整やら音のバランスの見直しを各自で始めた。



『ねぇ。』



ノートを広げ直したところで、そう言えばと思い出したことがあった。