朔へのキスをなかった事にされた社長令嬢は、悔しそうな顔をしながらすぐに帰っていった。





その後、七海さんも安心したように笑顔で部屋を後にした。






「やーっと平穏な時間が戻ってきたな。せっかくの休みだったのに、全然二人っきりになれなかったな。」




いつもの調子で喋る朔。




だけど…なんだろう。




いつもの朔ではない気がする。




「奏、これからどうする?」




私を見つめる瞳は、寂しそうで。




「朔…」




その瞳に吸い寄せられるように、私は朔の唇に触れるだけのキスをした。




「奏…」




「…朔のウソつき。私のこと愛すなんて言って、他の女とキスなんかしないでよ。」




一方的にそう告げて、今度はさっきよりも一秒長くキスをした。





「あれはぶつかっただけ…」




唇が触れそうなギリギリの距離で、朔がそう呟く。




「じゃあ、消毒してあげる…」





この男を前にすると、どうやら私はおかしくなるらしい。




私らしくない言動で、彼の快楽の渦に飲み込まれていることに気づく。





脳裏に、あの社長令嬢が浮かんでは、消え。





目の前のこの男を、私だけのものにしたい。






…ガラにもなく、そんなことを考えていた。