昨日と同様に、私が渡した封筒から、拓真君が支払いを済ませて、店を出た。

気持ちいい秋風に当たり、微かに金木犀の香りが漂うと、幾分気持ちが落ち着いてくる。

『今日も一日、ありがとうね…なんか、いろいろ勉強になったよ』
『いや、僕も萌さんから学ぶことは多いから、感謝してる』
『あ、ソレ嫌味でしょ』
『本当だよ…何だろう?忘れてた感情を思い出させてくれる…みたいな』
『…何か馬鹿にされてる気がする』
『してない、してない』

昨日より少し入ってるアルコールが、心地良く身体を巡っているようで、気分が良い。

水曜日のこの時間は、遅くまで飲む会社員も少なく、歩道を行き交う人の数も、週末のそれとは違って、そんなに多くは無かった。

駅までの雑踏を、二人で並んで歩く。

目の前の男女が、身を寄せ合い手を繋いでいるのを見て、やっぱりうちらは、今のところそうは見えないのだろう、と苦笑した。

『私、頑張る…』
『ん?』
『明日こそ、拓真君とちゃんと手繋いで見せるから』
『うん…って、それ頑張るとこ?』
『違うの?』
『まぁ、違くもないか…というより、コレって、いい歳した大人の会話じゃないね』
『あ~それは言えてるね』
『だな』

結局、可笑しくなって、また笑ってしまった。

無意識かもしれないけれど、敢えて私が重く考え込まないようにしてくれているようで、やっぱり拓真君は、優しいと思う。