美園の、すべてを見透かされそうな千里眼のような瞳でジッと見つめられて、咄嗟に視線を逸らすと、小さな溜息を吐かれる。

『まぁ、いいわ…それより、今日の帰り、時間ある?』
『帰り?』
『営業の牧村さんにご飯誘われてるんだけど、良かったら、萌も一緒にどうかな?って』

営業の牧村さんと言えば、確か今年27歳になる、将来有望株のイケメン社員。

そんな優良物件が、いまだ独身でフリーだって話だから、誰が彼を射止めるのかって、女性社員の間では、よく名前の出る人だ。

最も自分は全く興味が無いから、直ぐに顔も思い出せないけど。

『ごめん、今日はちょっと用事あるから…』
『そう、じゃ仕方ないね、他探すわ』
『ねぇ美園、でもそれって、牧村さん、もしかしたら美園を個人的に誘ってるんじゃ…』

リアルな恋愛経験はゼロに等しくても、それがそういう誘いかもしれないことくらいは、何となく私にもわかる。

そう言うと、即座に”考えすぎよ”と、カラカラ笑う美園。

『向こうも他に何人かいるみたいだし、こっちも”誰か誘って”って言われたから、そういうんじゃないでしょ…多分、事務系の女子とも交流持って、自分の仕事をやりやすくしたいんじゃない?抜かりないエリートの考えそうなことよ』
『そう…ならいいけど』
『それより、ちょっと、どうしたのよ?急に恋愛モード全開じゃない』
『べ、別に、そんなんじゃないし』
『でも、良い傾向だわ、これも徳永たちのおかげかもね』
『関係ないでしょ、それ』
『フフ…日曜日、運命の出会いがあるかもよ~』
『なッ…』

面白そうに言う美園に反論しようとすると、ちょうど美園宛の電話が入り、その応対の為に、さっさと自分の席に戻っていく。