今時、ジェンダーだからって、簡単には仕事を失うことはないとは思うけれど、廻りに知られたら、現実的に居づらくなる…という意味だろうか。

『な、何よッ、こっちだって時枝君が本物の恋人じゃないってバレたら、ホントに現実の男と付き合わされるかもしれないんだから、バレたら困るのは、一緒でしょ?』

つい本音が口を次いで出てしまう。

状況は違えど、死活問題なのはこっちも一緒なのだと言っても、こちらの事情など、まだ何も知らない彼には伝わるはずもない。

『あの…森野さん?』

気付けば、驚いたように顔を上げ、こちらを見ている時枝君と目が合った。

『あぁ、その…ごめん…っていうか、今日はそのことを追求するために、呼び出したわけじゃなくて…第一、証明にはならないかもしれないけど、時枝君のこのこと知ったの半年以上前で、いままで誰にも言ってないし、これからだって言うつもりもないのよ…私はただ、日曜日の問題を回避したいだけで…』
『…わかりました』
『え?』

時枝君は、スクリと立ちあがり、珍しく背筋を伸ばすと、黒縁の眼鏡のフレームを少し持ち上げる。

『森野さんのお願い、引き受けます』
『本当!?』
『…ただし、僕にも一つお願いがあります』
『お願い?』
『もし、この任務が無事完了したら、僕のお願いも聞いてもらえますか?』
『悪いけどお金はもう…』
『お金じゃないですし、大したお願いじゃありません…簡単なことですから』