『君がこの部屋に来た時、心臓が止まるかと思った…』
『…大げさでしょ』
『今更違うと言われても、手放してやることは出来なそうにないが…萌、覚悟はできてるよな?』
抱きしめる手を緩め、少しだけ身を離し、こちらの意向を伺うように覗き込む。
『今この瞬間から、君は俺の恋人になる』
画面越しなんかじゃなく、触れる手の温かさやリアルな息遣い。
真剣な眼差しでジッと見つめられ、その眼差しの熱量に、逸らしたくても逸らせなくなる。
『…うん』
素直にうなずくも、何故か怪訝な顔をされてしまう。
『念のために確認するが、これはゲームの世界じゃないからな』
『わかってる、拓真君はリアル(現実)な彼氏ってことでしょう?』
『その言い方が、バーチャルっぽいんだが…』
やや納得のいっていない顔の拓真君は、徐にかけていた眼鏡をはずすと、胸ポケットに収め、そっと私の肩に手を触れる。
『…萌』
さっきより甘めの声で、名を呼ばれ、もう一つの手が私の髪に触れる。
『現実だって、今ここで確認しても?』
ドキッ
『えっと…ここ専務室ですけど』
『知ってる』
『…ダメって言ったらしないの?』
『もちろんしないよ……さぁどうする?』
髪に触れてた手が頬に移動し、こちらの意向を確認するように、にこりと微笑む。



