『実は美園さんにも、めちゃくちゃ怒られたし』
『え…美園に?』
『”萌を揶揄ってるだけだったら、どんな手段を使っても、必ず後悔させてあげる”って、彼女笑顔で言ってたけど、あれ本気だな…もちろんそんなことないって、すぐに断言したけど…』
さっきここに来る前、美園はそんなこと、一言も言っていなかったのに。
『…それって、いつの話?』
『午後の早い時間かな、いきなり”顔貸せ”って呼び出されてね…ああ、そういえば美園さんからまだ聞いてなかったんだね』
『何の…こと?』
『牧村の辞令のいきさつと、俺の復帰の話。一応、誤解を招くといけないから、美園さんには話しておいたんだが…』
やられた。
美園は、全部知ってたんだ。
『フッ』
『何?』
『ううん、何でもない』
美園の優しい嘘に、怒るよりも、可笑しくなる。
『隙あり』
ふいに、手の力が緩んでしまうと、目の前の温もりが消え、瞬時に今度は正面から抱きしめられた。
『ふ、不意打ちは…ズルい』
『言っておくが背中で笑われると、くすぐったいんだ…それにこっちの方が安心する』
そう言うと、まるで大切な宝物を包み込むように、ギュッと抱きしめてくれる。
確かに…今やこの温もりが、堪らなく心地いい。



