『…良かった』
その安堵感から気が緩み、込み上げたものが零れ落ちてしまう。
『萌?…もしかして、泣いてる?』
『な、泣いてるわけないでしょ』
『…顔、見たいんだけどな』
『え、待って!あの…もう少しこのままで』
照れくささと、泣き顔を見られたくなくて、申し出は一旦退けた。
拓真君は諦めたのか、肩の力を抜くと、自分の腰にまわされた私の手に、自分の手を重ねてくる。
背広から伝わる僅かな体温と、包まれた手のぬくもり。
それだけでもう、胸の奥が一杯になってしまう。
『…本当は、長期戦を覚悟してたんだ』
背中に触れた耳から、直接声が伝わってくる。
『君を落とすには、一週間じゃ足りない。もっと時間が必要だと思ってね』
『もしかして、総務課に残りたいって言ったのって…』
『ダメ元で専務に抵抗してみたが、さすがに即却下された』
総務課に残りたいと言った理由が自分のせいだなんて、思ってもみなかった。
『手を煩わせちゃったんだね…私』
『いや、こんな限られた時間の中で、手に入れようと、俺が焦りすぎただけだ』
確かに、一週間前には想像もしなかった展開で、自分だって未だ信じられない。
バーチャルゲームでもなく、たった一週間で、誰かを好きになったり、こんな風に直接触れ合うことができるようになるなんて…。



