『…やけに嬉しそうだな』
『え?』
拓真君は一旦持ってたコーヒーをテーブルに置くと、両ひざに肘をつき両手を組むと、先ほどと同様に顔を背ける。
『俺が秘書課に戻るのを、そんなに喜ばれると……流石に傷つくんだが』
口元は組んだ手元で隠れ、最後の言葉は独り言のように吐き出す。
それは、総務課での優しい”時枝君”でも、クールでスタイリッシュな”如月さん”でもなく、昨日の夜に初めて触れた、素の顔。
つっけんどんな口調は、少し怒っているようにも見えて、その言い方はまるで…
『…拓真君、もしかして拗ねてる…とか?』
こちらに顔をそむけている形の拓真君に尋ねれば、隠し切れていない耳が赤く染まっているようにも見える。
隠されたその表情が見たくて近づこうとすれば、逃げるようにスッと立ち上がり、景色の見えない窓際に向かって、背を向けてしまう。
『潔くないのは、自分でもわかってる…牧村どころの話じゃない。俺は昨日、君に嫌われて当然なことをしたんだ』
腰に手を添え、短めの髪をぐしゃりとしながら話すのは、思ってもみなかった自分自身への戒めの言葉。
実直な態度と声音で『本当に悪かった』と、謝罪の言葉を口にする。
『もちろん言い訳するつもりはない…最初から性急過ぎることはわかっていたが、来月になれば俺は同僚では無くなるし、こんな風に話すこともできなくなると思ったら、言わずにいられなかった…その上、君の反応が思ってたより良くて舞い上がって、つい調子に乗ってしまった』



