たった7日間で恋人になる方法


杉崎専務が、若くしてここまで昇りつめて来られた理由が分かった気がした。

その専務を支える拓真君の仕事は、どれだけ難解で大変なのだろうということも。

拓真君にとっては、秘書課への復帰は、単に喜ばしいことだけじゃないのかもしれない。

もうしばらく総務課にいたいというのも、上層部に戻ってからの大変さを知っているが故の本心なのだろう。

今更ながらに、拓真君と自分では、存在している階層(ステージ)が違うことに気付かされる。

『…いつから復帰するの?』
『専務の計画だと、今月末に”時枝”として会社を退社して、来月から”如月”として再雇用されるらしい』
『そっか、同僚の”時枝君”に会えるのも、あと少しってことだね』
『…そうなるな』
『あ、送別会しなきゃね』
『何年もいたわけじゃない、する必要ないだろ』
『そんな訳にはいかないよ。どこにしょう?菊田さんとかめちゃくちゃ張り切りそうだし』

ただの同僚としての顔で自然に話すも、気持ちと裏腹な笑顔が保てず、それを誤魔化すために紅茶を口にする。

後2週間もすれば、拓真君はもう職場の同僚でもなくなり、バーチャルな世界でしか恋愛することの敵わない”ハイスペック男子”に戻ってしまう。

…せっかく昨日の夜、あんなにも近づいたと思ったのに…。

首筋の痣がチクリと痛んだ気がする。