どうしょう…気まずすぎる。
予想していなかった展開に戸惑い、どうしたらいつも通りに自然に会話できるのか、ぐるぐると思考を巡らせているうちに、目の前のガラステーブルの上に置かれた、ティーポットとティーカップ。
『もう1~2分、蒸らせた方がいいから』
本格的に茶葉から入れているようで、その心地いいい香りが室内に漂い、混迷している気持ちを、ほんの少し沈ませてくれる。
『凄い…ティーパックじゃないんだね』
『…一応これでも1年半前までは、秘書だったんでね』
『秘書って、こんな勉強もするんだ』
『嗜みの一つかな…別に必須条件って訳じゃない』
拓真君は対になっているらしい向かい側のシングルソファーに座り、私物らしきマグカップに入れたコーヒーを口にする。
聞けば、カップの中身はインスタントのコーヒーらしい。
会話が途絶え、淹れてくれた紅茶をティーカップへ移すと、香りを愉しみながら口にした。
『…美味しい』
砂糖を入れなくても、微かな甘みを感じ、自然と感想が口を次いで出てしまう。
思わずつぶやいた言葉に対しても、なんの反応もなく、チラリと目の前の拓真君を見れば、両手でカップを膝の上に持ったまま、視線の先は景色の見えない窓に向いている。
何かを思案しているようにも見えるけれど、何を考えているのかは、その横顔からは読み取れない。
バーチャルゲームなら、この行き詰ったシチュエーション辺りで、いくつかのセリフの選択肢が現れ、そのどれかを選べば、物語は自然と先に進むのに…。
現実はそう簡単には行くはずがなかった。



