たった7日間で恋人になる方法


『それより、君にお願いがあるんだ』
『な、何でしょうか?』
『急で悪いんだが、今から車の手配をしてくれないか?』
『今から…ですか?』
『ああ、仕事というより、少し外の空気を吸いたくなってね』
『はぁ…』

唐突な申し出に、怪訝な顔を示すと、杉崎専務が榊さんの耳元に何かを囁くような仕草。

それに呼応するように、彼女の頬に赤みが差していく。

『…わかりました』

榊さんは、細い綺麗な指先で、ウエーブのかかった長い髪を右耳にかけ、コホンとわざとらしく咳ばらいを一つする。
 
『では、只今手配してまいります』
『悪いね、すぐに行くから』

彼女が部屋を出ていくのを見送りながら、思わず『専務、何を言ったんだろう?』と呟くと、近くに立つ拓真君に『君は知らない方がいい』と、溜息まじりに返された。

『如月』
『はい』
『私は小一時間ほど、榊君と外出する。すまんが、その間の留守を頼むぞ、もちろん総務の方には私の方から上手く言っておく』
『…承知しました』

拓真君は言うや否や、部屋の隅にあったクロークらしい場所から、上質な薄地のコートを取り出し、無駄のない所作で、専務の元まで行き、それを手渡す。

その動きは、総務課内での”時枝君”からは想像できないほど俊敏で、美しい身のこなしだった。