たった7日間で恋人になる方法


『ところがこいつは、この期に及んでもう少しこのまま総務課にいたいと言い出したんだ』
『えっ、どうしてそんな…せっかく戻れるチャンスなのに』

私にだって、拓真君のような人材が、今のまま雑用のような仕事しかさせてもらえない環境じゃ、もったいないことくらいわかる。

拓真君は複雑な表情を浮かべながらも、その理由は語らず、専務に向かって『結局復帰することにしたんですから、もう良いでしょう』と言えば、『あたりまえだ』と叱られる。

室内は最初にあった緊張もほぐれ、和やかな空気が流れ出し、気づけば、時刻は間もなく16:30になろうとしていた。

いつの間にか、この部屋にきてから、20分近く経っていることになる。

ふいに専務が入口の扉の方をちらりと見て

『さて、そろそろ…かな?』

いかにも高級そうな腕時計を、自分の目の高さで確認すると、その瞬間まるで図ったかのように扉を叩く音がした。

”コンコン”

控えめなノックの後に続けて、扉の外から『榊です』と声。

専務が返事をすれば、ゆっくり扉が開き、秘書の榊さんが姿を見せると、室内にいる私にすぐ気づき、『あなた、やっぱりここにいたのね』と呆れたようにつぶやかれた。

『いいんだ、彼女は私が呼んだんだ』
『専務が?』

杉崎専務が、うまく口裏を合わせてくれる。

訝し気に私の方をみる榊さんに、専務がゆっくり近づいていき、入口近くまでくると、彼女の肩に軽く手を触れた。