『君はどうして私が、如月を解雇すると思ったのかな?』
『それは…専務が直接時枝さんを呼びつけたと聞いて…それってもう、隠す必要がなくなったってことなのかと…』
すると拓真君が『やっぱりそうか』と口を開き、専務に苦言を呈す。
『だから言ったじゃないですか?あんな風に直に専務命令で呼び出しなどするから』
『あれは朝から何度もメールで呼び出したのに、お前が上がってこないからだろ』
『…それは、まぁ…そうですが』
『しかもあんな我儘ばかり言いやがって』
『あんな我儘?』
『専務、その話はもういいじゃないですか』
私が専務の言葉尻に疑問符を着けると、慌てて会話を終わらせようとする拓真君。
その様子が気になり、首をかしげていると『そうだ、君にも話しておこう』と、専務が再びこちらに向き直る。
『如月がNY行きを辞退することを承認する代わりに、社長からいくつかの条件が出たと言っただろう?』
『はい』
『その条件には、如月の事実上の現場復帰も入ってたんだ』
『それって、専務秘書に復帰するってことですか??』
『ああ、この際、回りくどい方法は抜きにして、さっさと復帰させてしまえ、とね』
いよいよ痺れを切らした社長の独断で、誰にも文句を言わせないからと、下命されたらしい。
『凄いじゃない、拓真君!!』
思わず専務の前であることも忘れ、喜びを告げるも、浮かない表情を浮かべる拓真君。
なるほど、これで専務がリスクを顧みず拓真君を呼びつけた理由がわかった。
上層部への復帰が決まっているなら、”総務課の時枝拓真”は、お役御免ということになる。



