『その時拓真君…いえ、そこにいらっしゃる”如月さん”が助けてくれたんです。自分のこと、バレてしまうかもしれないのに、私を助けるために…だから』
『牧村にバレたのは、君のせいじゃない』
『拓真君』
『あの時バレずに助けることくらい、いくらだってできたのに、俺が…我慢が利かなかったんだ』
『違う、私が警戒心が無さ過ぎたから』
『萌が悪いわけじゃないだろ』
いつの間にか拓真君との口論になり、本題からずれそうになっていることに気づいた私は、改めて専務に向き直る。
『杉崎専務、ですから、辞めさせるなら拓真君じゃなく、私に…』
『おい、辞めるって、君は何を言って…』
『拓真君はちょっと黙っててよ』
『黙ってられる訳ないだろっ』
クククッ…
誰かの堪えた笑い声にハタと気付き、拓真君と二人、正面を見れば、大きなデスクの前にある自身の高級そうな椅子に手をかけ、腰を曲げて笑いを堪えている杉崎専務。
『杉崎…専務…?』
訳も分からず声をかけるも、片手で”ちょっと待て”のジェスターをこちらに向け、ひとしきり笑い倒す。
困惑して拓真君を見れば、
『…この人一度笑い出すと、なかなか治まらないんだ』
しれっと、いつものことだと言わんばかりに、両肘を抱くようにすると、諦めたように、ノンフレームの眼鏡を持ちあげる。



