『失礼します!』

開けた瞬間、部屋の中にいた男性二人が、一斉にこちらを振り返る。

一人は、大きなデスクの向こう側、正面のガラス窓に背を向けて立っていた、杉崎専務。

もう一人は、デスクの手前、昨日の夜、初めて見た本来の姿である”如月拓真”の容姿そのままの、拓真君。

『君は…』
『萌っ!?…』

二人同時に言葉を発し、拓真君はすぐに口を閉じると視線を外し、専務はそんな拓真君を一瞬だけチラリと見てから、その場でガラス窓にもたれ、腕を組む。

こんな時にも拘らず、拓真君の口から、咄嗟に自分の名前がこぼれ出たことに、胸の奥がキュンとなった。

『こちらの返事も待てずに入ってくるとは、随分急いでいるんだな?君は』

拓真君に比べ、差して動揺したそぶりも見せず、薄く笑みを浮かべている杉崎専務。

口調は穏やかでも、妙な威圧感があり、その圧に怯んでしまいそうになる。

『総務課の森野です…杉崎専務に、急ぎお話しておきたいことがあり、不躾に申し訳ありません』
『私に話しておきたいこと?』

一呼吸置いてから、ゆっくりと言葉に出す。

『そこにいらっしゃる時枝さん…いえ、”如月拓真さん”のことです』

ハッキリと”如月”という名を口に出せば、場の空気がガラリと変わった気がした。

何も知らない榊さんがいなくて良かった。

彼女がいたら、この話が出る前に追い返されていたかもしれない。