向かい合う6台あるうちの手前4つは低層階用で、そこには何人かの社員が並んでいたけれど、その先一番奥にあるエレベーターの前に人の姿はなく、ボタンを押せばすぐに扉が開いた。

無人の箱の中に入り、躊躇なく階層ボタンを押し、続けてすぐ閉ボタンを押すと、扉が閉まった途端にゆっくりと浮上していく。

急いてる気持ちが、鼓動に呼応し、落ち着くために大きめの深呼吸を一つ。

視界の右側にある大きなガラス張りに気づくも、あえてそちらに目線を向けず、ただまっすぐ目の前のパネル板だけを見つめていた。

…つい先週、このエレベーターに拓真君と乗ったっけ。

高いところが苦手な私を気遣って、自分も仕事の途中だったのに、一緒に乗ってくれた。


”もし、怖かったら、僕のスーツの裾を掴んで良いから”


不安がる私に、そう言ってくれた拓真君。

あの時は、単に女性が苦手だからなのだと思っていたけれど…本当は違ってた。

きっと、私がリアルな男性に慣れていないことに気付いて、気遣ってくれていたのかもしれない。

あの日だけじゃない、この一週間ずっと…。

温かな感情が自分の奥底に広がり、込み上げてくる想いに、胸の前で組み合わせた手をギュッと握りしめた。