『鈍いわね、時枝君とやったのかって話よ』
『やっ…そんな訳ないでしょっ』
否定しながらも、何も無かったとも言えず、顔が火照り、慌てて口にしたアイスティーで、軽くむせてしまった。
『なんだ…萌のソレって、てっきりそうなのかと』
美園の綺麗な指が、自分のブラウスの一番上のボタンを指し示す。
ドキッ
『おおかた、あいつに、首筋にでもキス跡着けられたんでしょう』
『な、な、なんでそれをっ』
『あのねぇ、萌、普段閉めない襟元の第一ボタンまで、きっちり閉めてるなんて、不自然過ぎて、バレバレなのよ』
『バレバレ…』
『言っとくけど、あんた朝から、”週末は森野さん、熱い夜を過ごされたのね~”って、噂になってたわよ』
『嘘!?』
今日はやけに、みんなの様子がおかしいと感じたのはこのせいかもしれない。
誤魔化そうとしたのが、むしろあからさまだったなんて…。
『うぅ…恥ずかしい…』
『そんな場所に残す時枝君も、どうかと思うけどね』
『どうしよう、美園』
『安心しなさい、後で目立たない程度に隠してあげるから』
『これって、隠せるものなの??』
『メイク道具って、化粧するためだけにあるわけじゃないのよ、萌』
そんな手もあったのかと、感心する私に『これからは、リアルな恋愛術も学ばないとね』と、何故か嬉しそうな美園。



