『確かに、この降って沸いたようなタイミングの人事が、怪しいって言ったら怪しいけどね…』
『やっぱり美園もそう思う?』
『う~ん…ただ、杉崎専務が、そんな脅しに屈するとは思えないけどね』

美園が言うように、もし牧村さんが専務に直談判したところで、あの杉崎専務が簡単に言いなりになるとは考えにくい。

『一応今のところ、貼りだされてたのは牧村さんの辞令だけだし、大丈夫だと思うけど…』

不安な気持ちを振り払うように、ボトルに入った甘めのアイスティーを口にすると、真っ青な空を見上げる。

雲一つない透き通るような空は、やけに高く感じ、何故だか物悲しく感じてしまう。

『…時枝君が心配?』

問われて隣の美園を見れば、こちらの不安を他所に、スラリとした足を組み、にやついた顔でこちらを見てる。

『そ、それは、当然でしょ』
『萌の心配って、時枝君が自分のせいでクビになっちゃうかもしれないこと?…それとも、時枝君が総務課からいなくなって毎日会えなくなっちゃうこと?』
『そんなの…』

その質問の意味を、素直に受け取ると、返答に迷う自分にさらに動揺する。

美園は、そんな私の姿がよほど面白いのか、急に身を寄せ、追い打ちをかけるように、耳元でコソリと聞いてくる。

『ところで、昨夜はどこまで行ったのよ?』
『どこまでって…』
『奴の家まで行ったんでしょ』
『う…うん?行ったけど』
『全部済んだの?』
『全部?』

美園の問いの意味が分かず、疑問符で返すと、美園は大きなため息を吐いてベンチの背もたれに身を預け、腕を組んだま身を逸らせる。