『一応言っておくけど、ヤツも私と同じ口だからね』
『同じ口?』
『自分の意志に関係なく、同僚に騙されて連れてこられたってことよ。ずっと私と一緒に不機嫌そうだったから、印象に残ってて覚えてたの』

美園は、マイボトルに入れ替えたインスタントコーヒーを飲みながら、そう断言する。

そういう会に積極的に参加する拓真君は想像できないけど、やっぱり気持ち的には行ってほしくないと思ってしまう。

もちろん、そんな権利、私にはないけれど…。

『でも一年もよく騙してくれたわね、アイツ。無能なふりまでして』
『仕方ないよ、専務からの仕事もこなしながらだし』
『うちの部長も知らないんだっけ』
『うん、知ってるのは、本当に限られた人だけみたい…あ、だから、美園も…』
『わかってるって、こんな美味しいネタ、誰にも言わないわよ』

美園は、”これをネタに、ヤツ(時枝君)の高いスキルをフルに利用しなくちゃ”と、意気込んで見せる。

拓真君も、昨日の姿を見られた以上、美園にこのまま素性を隠し通せるわけがないことは、わかっているはずだから、こうしてすべてを話すことは問題ないだろう。

それよりも、朝からずっと気にかかっていることを、美園に相談することにした。

『ねぇ美園…これって、皆にバレたら、どうなると思う?』
『時枝君が、実は去年解雇された、如月某だったって話?』
『うん…そのことで拓真君、まさかクビ…とかないよね?』
『何よソレ、誰かにバレたの?』
『…もしかしたら、牧村さんにバレちゃったのかもしれない』
『牧村さん?』

美園に、金曜日の話をかいつまんで説明すると、ひとしきり牧村さんの愚行に憤慨した上で、冷静に分析をしてくれる。