各々が、香織ちゃんの言葉に誘導されるように、更衣室を後にして、辞令の張り出された掲示板を、確認しに行く。

続いて篠原さんも、香織ちゃんに着いて出ていき、気が付けば、あっという間に、一人取り残された。

相変わらず、牧村さんの人気は、相当高いらしい。

皆、あの人の本性を知ったらどう思うんだろう?

先週の金曜日の一件が脳裏によぎり、強引に迫られ、危うくキスまでされそうになったことを思い出す。

あの時、拓真君が来てくれなかったら、私…。

『!』

ふいにあの時、自分がとっさに口にした拓真君のその呼び名に、牧村さんが反応したことを思い出した。

あの時の拓真君、外見は”時枝君”のままだったけれど、人格が変わったみたいに、その口調や態度が明らかに違ってた。

今思えば、きっとあれが、素の”如月拓真”なのだろう。

もしかしたら、牧村さんはあの時、”時枝君”が”如月拓真”なのだと、気づいたのかもしれない。

確か前に、”如月”とは同期だと話していたから、あの瞬間に拓真君の素性が、バレてしまった可能性は充分にありえる。

そうだとしたら、この異動って…。

『…まさか、関係ないよね』

偶然にしては、タイミングが重なりすぎてる気がしてしまう。

もし牧村さんが、拓真君のことを、上層部や杉崎専務に密告していたら?

もしこの栄転は、口止めの為の、その見返りだとしたら?

拓真君は、このままここ(会社)にいることはできるの?

…嫌な胸騒ぎがする。

ロッカーのドアを閉め、自分も掲示板を確認するために、更衣室を後にした。