『萌、混乱させついでに、その手にある郵便物の宛名をよく見てごらん』
言われて、無意識に視線を手元に戻すと、薄闇の中、雑誌の下にまわしてしまっていた、いくつかの郵便物の宛名を確認。
僅かな月明かりで、そこに書いてある名前をみて、愕然とする。
当然、”時枝拓真”と書いてあるべき場所に書いてあった宛名は…
『…キサ、ラギ?え?…キサラギ、タクマ??』
会員様へのお知らせDMに書かれた無機質に印字された名前も、友人らしき人から届いた転居を知らせるハガキにも、どれにも同じ名前”如月拓真”と書かれている。
一瞬、頭の中が、パニックに陥った。
『た、拓真君、これって、どういうこと?如月って、まさかアノ…!?』
瞬間、その人物について、いくつかの証言が頭をよぎる。
”仕事はかなり優秀な男だったんだが、女にだらしないのが難点でね、何人もの女性社員に手を出した挙句に、問題を起こして解雇されてしまった、馬鹿な奴さ”
”…女だよ、女!…確か、業務時間内にどっかの執務室だか会議室だかで、女とヤッてるとこ見つかって…”
この数日間で耳にした情報で、自分の中での彼(如月某)の印象は、女性にとっては限りなく”最低最悪な男”。
その男が、今、目の前にいる、拓真君と同一人物だというの??



