『待って…この人って』
表紙にある、男性同志の恋人達のワンシーンを切り取った写真。
モデルの左側、銀縁の眼鏡をかけ知的な雰囲気を漂わせながら、初秋の落ち着いたベージュ系のファッションに身を包み、寄り添うように身を寄せる右側の男性に、柔らかな視線を送るその顔は…。
『…拓真君!?』
表紙の端に小さく、モデル名”TAKUMA&小柴湊”とある。
改めて、左側のモデルと、目の前の拓真君を見比べれば、明らかに本人に違いなかった。
『気付くの遅いだろ』
『で、でもそれなら、やっぱり…』
『勘違いするな、そういった雑誌だからって、すべてのモデルがそうなわけじゃない。一時、仕事もなく暇だった時期に知り合いに頼まれて、軽い気持ちでやってみたら、思いのほか反響があって辞められなくなった。萌が見たのは、事務所のマネージャーが、職場の近くに来た際に、俺の載った雑誌と、モデルの参考にって持ってきたものだ』
バツが悪そうに、『そのまま自宅に持って帰り忘れたのは、完全に自分のミスだけどな』と、付け加える。
同性愛者をターゲットにした、雑誌のモデル。
…そう言われてみれば、猫背でない彼の容姿は、モデル並みのスタイルの良さで、スッキリと整った顔は、お世辞抜きでもイケメンの部類に入るのだろう。
『最初君に、”何か隠してること無いか”って言われた時、てっきりモデルの件がバレたのかと思った』
『今も…やってるの?』
『仕事に復帰してからは、さすがに数はセーブしてるけどな。一応、表紙になるのは、それが最後だって言ってあるし。まぁ職場での俺の容姿で生活してれば、早々にバレる心配はないだろうけど…』
不意に、さっきと同様に、何かが引っかかる。
『…ちょっと待って』
『ん?』
『”職場での…”って、どういう意味?…それに、今”仕事復帰”って言ったよね?っていうか、そもそもうちって、副業禁止じゃ…』
複数の疑問が一気に頭に浮かび、矢継ぎ早に質問してしまった。



