『綺麗…』
『距離はあるから小さいけどね、むしろそこが気に入ってる。実はここに決めた時、5階だし、高層のマンションに囲まれてるから、景色なんて全然期待してなかったんだが、住んでしばらくして偶然気が付いて、ベットの位置まで変えたんだ』
『うん…それ正解かも』
真っすぐ目の前に広がる、キラキラとした都会の夜景を見つめながら、つぶやいた。
こんなお洒落なマンションの一室で、想いを寄せる男性とベットの真横にある窓から、宝石箱のような、素敵な夜景を眺める。
バーチャルな世界さながらの、甘いシチュエーションにも関わらず、仮初めの恋人としての役目が終わった私達の関係は、ただの同僚で、それ以上でも以下でも無い。
手を伸ばせばすぐに触れるほどの距離にいても、もうお互いにその手に触れることも、触れられることも、あってはならないこと。
わかってはいるものの不思議と切なさが募り、つい数時間前までこの手にあった温もりを断ち切るように、ギュッとスカートを握りしめた。
『萌?…どうかした?』
私が黙ってしまったので、心配した拓真君が、覗き込むようにして見下ろしている。



